抄訳
栄養外胚葉は、哺乳類発生過程で最初に分化し、将来胎盤を形成する細胞系譜 であるが、これまでこの過程を規定する分子機構は不明であった。胚性幹細胞 は、転写因子Oct3/4の発現抑制によって栄養外胚葉へと分化することが示され ていたが、我々は、同様の分化が別の転写因子Cdx2の強制発現によっても引き 起こされることを見いだした。Cdx2の機能は栄養外胚葉への分化には必要でな いが、栄養外胚葉幹細胞の自己複製には必須であった。初期胚では、8細胞期 までは全ての割球でCdx2とOct3/4が共発現しているが、これらは抑制性複合体 を形成し、お互いに抑制し合うことによって、最終的に栄養外胚葉ではCdx2、 内部細胞塊ではOct3/4という排他的発現が確立されることが示唆された。この ような細胞運命を決定する転写因子の直接の相互作用により分化運命が決定さ れる機構が、哺乳類の最初の分化を規定していると考えられる。