抄訳
各種ストレスによって視床下部で産生及び分泌されるcorticotropin-releasing factor (CRF)は、下垂体ACTH産生細胞におけるCRF 受容体タイプ1 (CRF R1) を介して、ACTHの合成、分泌を刺激する。同時に、CRFによるCRF R1の刺激は、次のCRF刺激に対するCRF R1の受容体感受性を一過性に低下させることがわかっている。受容体感受性の変化における細胞内シグナル伝達機構の上流には、G蛋白共役受容体キナーゼ (GRK) が関わっているとアドレナリンなど他のホルモン伝達系で報告されている。しかしながら、下垂体ACTH産生細胞でのGRKの発現とそのはたらきは不明である。当研究で我々は、ラット下垂体前葉細胞及び下垂体ACTH産生腫瘍細胞AtT-20を用いて、GRKのサブタイプの発現を調べ、更に同受容体キナーゼのdominant-negative 変異を下垂体腫瘍細胞に組み込むことで、CRFによるGRKのはたらきを証明した。Western blotting法及びPCR法により、CRK2 蛋白とmRNAの発現をラット下垂体前葉細胞及びAtT-20で認めた。更にdominant-negative GRK2を下垂体腫瘍細胞に組み込み、CRFの連続刺激を加えて、cAMPを指標にCRF受容体の感受性の変化について評価した。CRF連続刺激に対して、dominant-negative GRK2発現細胞では、非発現細胞に比較して、cAMP濃度の有意な増加を認めた。更に、PKA阻害薬の前投与によってもCRF連続刺激に対するcAMPの低下反応は抑制された。以上より、下垂体ACTH産生腫瘍細胞において、CRFによるCRF R1の感受性低下作用にはGRK2が関与していると考えられた。更に、同作用におけるPKA経路の関与が示唆された。