抄訳
HIV-1 感染により伴う高い悪性腫瘍の発症は、AIDSの免疫不全に伴う他のオンコウイルスであるEpstein-Barr Virus, human herpes virus 8 などの共感染が主要な原因因子とされている。しかし一方、AIDSが発症する以前より、悪性腫瘍の発現頻度が高いことも報告されている。これらは、HIV-1感染自体が、腫瘍因子である可能性を示唆する。我々は、HIV-1感染により、DNA二重鎖切断 (Double Strand Breaks; DSBs)が誘導されることを見出した。HIV-1アクセサリー遺伝子Vprの変異型ウイルスでは、DSBsが著しく抑制されたこと、Vpr強発現細胞およびVprリコンビナントを用いたin vitro実験系においてもDSBsが認められたことから、VprはDSBsの責任因子の一つであることが示唆された。Vpr自体にヌクレアーゼ活性は認められなかったが、VprはDNA(2本鎖、1本鎖)に結合し、特にVpr C末端領域がDNA結合の責任領域であることを認めた。また、C末端領域を欠失したVprはDSBsの誘導能を抑制したことから、VprのDNA結合は、DSBsの必要因子として機能していることも示唆された。近年、DNA 損傷シグナルはがん化初期過程で観察されることが報告されている。VprによるDSBsが、HIV-1感染に伴う腫瘍頻度の増大や悪性化を誘導しうること、今後HIV-1のウイルス量とゲノム状態の経過観察が肝要であることを提唱した。