抄訳
生物の発生過程における体軸の決定には、細胞の極性化が必要である。その際、極性化の決定因子の細胞内における位置が体軸決定に重要となる。線虫C. elegansの受精卵では、精子由来の前核/中心体からなる複合体(SPCC)の位置が前後軸における後極側を決める。SPCCは受精から約30分後に近くの細胞表層の収縮性を緩め始め、これは極性化に必要なSymmetry Breaking (SB)と呼ばれている。しかし、SBまでにSPCCの位置がどのようにして決まるのか不明なままであった。今回、受精直後に生じる細胞内の流れ(細胞質流動)がSPCCを押し流し、ランダムに位置を変えることを発見した。この流れは確率的にふるまい、時おりSB前にSPCCを精子侵入点の反対側まで持っていくことがわかった。今回の結果は、線虫の発生過程が型通りに進む前に、細胞質流動の確率的な特性が極性決定に重要な因子の位置を決定することを示した。