抄訳
宿主の免疫因子と結合して,宿主免疫系を阻害する機構が多くのウイルスにおいて報告されている。とりわけ,50以上ものサイトカイン信号を捌くことができるJAK-STAT経路は,多くのRNAウイルスに標的にされている。本論文では,その中で最も研究の進んでいるウイルスの1つである,パラミクソウイルス属麻疹ウイルスV蛋白質やそのN末端領域,C末端領域を精製し,ヒトのSTAT1およびSTAT2分子との直接の相互作用を評価した。これまでの細胞生物学による研究から,N末端領域はSTAT1分子と,C末端領域はSTAT2分子と相互作用することが報告されていたが,等温滴定型熱量計を使用した定量化から,C末端領域とSTAT2の相互作用は,N末端領域とSTAT1の相互作用より30倍強いことがわかった。また,本来IRF9がSTAT2に結合することによって転写因子複合体ISGF3が形成され,核移行の後に抗ウイルス蛋白質発現を活性化するが,V蛋白質はIRF9とSTAT2の結合を阻害することを明らかにしたことにより,免疫系阻害機構の分子実体が解明できた。