抄訳
トマト葉かび病は、世界的にトマト生産に深刻な経済的損失をもたらしている。育種によって、Cf抵抗性遺伝子を持つ品種が開発されてきたが、葉かび病菌は新たな系統(レース)へと進化することで、これらの抵抗性品種を打破した。さらに、複数の化学殺菌剤に対する耐性を獲得していることから、持続可能な新たな防除法が求められている。葉かび病菌に寄生する菌寄生菌H. pulvinataは、生物防除剤として期待される。寄生性メカニズムの解明を目的に本研究では、菌寄生菌が産出する抗菌性セスキテルペンdeoxyphomenoneを解析した。我々は、菌寄生菌とAspergillus属の両方でdeoxyphomenone生合成遺伝子クラスター(DPH)を同定し、比較ゲノム解析によって菌寄生菌はDPH遺伝子クラスターをAspergillus属の祖先種から水平伝播によって獲得したことを明らかにした。またAspergillus属では内因性の胞子形成制御因子として機能していたdeoxyphomenone が、菌寄生菌では寄生性に有利な外因性の抗菌性物質として利用するように適用進化したと考えられた。以上のことから、菌寄生は、菌類における水平伝播を促進するメカニズムの一つである可能性が示唆された。