抄訳
Regnase-1 (Reg1)は、免疫細胞においてIL6などサイトカインのmRNAを分解することで炎症を制御するRNA分解酵素であるが、腸管上皮細胞にも生理的に発現しており、その意義は不明である。本研究では、大腸腫瘍においてReg1が果たす役割を明らかにすることを目的とした。大腸腫瘍モデルであるApcMin/+マウスで腸管上皮特異的にReg1を欠損させると(Reg1KO-Min)、大腸腫瘍が有意に増加・増大した。網羅的な遺伝子発現解析では、Reg1KO-Min の腫瘍組織でIL-17 signalingのkey mediatorであるNfkbizとその下流の分子の発現が上昇しており、さらに、Reg1KO-MinでNfkbizを欠損させると腫瘍が著明に減少・縮小することから、NfkbizがReg1の標的分子と考えられた。Reg1発現安定作用を有するDimethyl Fumarate (DMF)を投与すると、Reg1発現を有するApcMin/+マウス(Reg1WT-Min)では大腸腫瘍がリン酸化ERKの発現低下を伴って有意に減少・縮小するものの、Reg1KO-MinではDMFの抗腫瘍効果が認められないことから、DMFはReg1の発現安定化を介してIL-17経路の活性化を抑制し、リン酸化ERKなどの増殖シグナルを低下させ、大腸腫瘍抑制効果を示すと考えられた。ヒト大腸腫瘍組織を用いた検討でも、Reg1とNFKBIZの発現は逆相関することや、Reg1低発現症例群の予後が不良であることが分かった。以上より、Reg1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17経路を制御し、大腸腫瘍の発育を抑制することが明らかとなった。Reg1は大腸腫瘍の新たな治療標的になりうると考えられる。