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2025/06/16

Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17 signalingを制御し、大腸腫瘍の発育を抑制する

論文タイトル
Epithelial Regnase-1 inhibits colorectal tumor growth by regulating IL-17 signaling via degradation of NFKBIZ mRNA
論文タイトル(訳)
Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17 signalingを制御し、大腸腫瘍の発育を抑制する
DOI
10.1073/pnas.2500820122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.23
著者名(敬称略)
井口恵里子 髙井淳 他
所属
京都大学大学院医学研究科・医学部消化器内科学
著者からのひと言
RNA分解酵素であるRegnase-1は主に免疫細胞に発現し、炎症を制御する分子として知られています。本研究では、Regnase-1が大腸上皮細胞にも生理的に発現し、IL-17 signalingの重要な分子であるNfkbiz mRNAを分解することで、腫瘍抑制的な役割を果たしていることを初めて明らかにしました。本研究成果は、すでに米国で認可されているDMFを含め、Regnase-1を標的とした新たな治療薬の開発につながる可能性があると考えています。

抄訳

Regnase-1 (Reg1)は、免疫細胞においてIL6などサイトカインのmRNAを分解することで炎症を制御するRNA分解酵素であるが、腸管上皮細胞にも生理的に発現しており、その意義は不明である。本研究では、大腸腫瘍においてReg1が果たす役割を明らかにすることを目的とした。大腸腫瘍モデルであるApcMin/+マウスで腸管上皮特異的にReg1を欠損させると(Reg1KO-Min)、大腸腫瘍が有意に増加・増大した。網羅的な遺伝子発現解析では、Reg1KO-Min の腫瘍組織でIL-17 signalingのkey mediatorであるNfkbizとその下流の分子の発現が上昇しており、さらに、Reg1KO-MinでNfkbizを欠損させると腫瘍が著明に減少・縮小することから、NfkbizがReg1の標的分子と考えられた。Reg1発現安定作用を有するDimethyl Fumarate (DMF)を投与すると、Reg1発現を有するApcMin/+マウス(Reg1WT-Min)では大腸腫瘍がリン酸化ERKの発現低下を伴って有意に減少・縮小するものの、Reg1KO-MinではDMFの抗腫瘍効果が認められないことから、DMFはReg1の発現安定化を介してIL-17経路の活性化を抑制し、リン酸化ERKなどの増殖シグナルを低下させ、大腸腫瘍抑制効果を示すと考えられた。ヒト大腸腫瘍組織を用いた検討でも、Reg1とNFKBIZの発現は逆相関することや、Reg1低発現症例群の予後が不良であることが分かった。以上より、Reg1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17経路を制御し、大腸腫瘍の発育を抑制することが明らかとなった。Reg1は大腸腫瘍の新たな治療標的になりうると考えられる。

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