抄訳
グラム陽性菌において、D-アラニンは、細胞壁ペプチドグリカンの架橋形成やタイコ酸の修飾に不可欠である。その合成はアラニンラセマーゼ(Alr)およびD-アミノ酸トランスアミナーゼ(Dat)に依存し、D/L-アラニンの取り込みはトランスポーターCycAにより行われる。本研究では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のalr、dat、cycA遺伝子を不活化した変異株を用いて感受性を評価した。その結果、特にalr欠損株およびcycA欠損株においてβ-ラクタム系、アミノグリコシド系、ダプトマイシンなど複数の抗菌薬に対する感受性が上昇し、菌体表層の陰性電荷が増加していた。さらに、アラニンを除去した培地では、MRSA株のβ-ラクタム系抗菌薬への感受性が著しく高まった。これらの結果は、D-アラニンの欠乏がペプチドグリカンの低架橋化および表層電荷の変化を引き起こし、抗菌薬感受性を上昇させることを示唆している。