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2025/08/07

サメ・エイ類は独自の性決定機構を備えた脊椎動物最古の性染色体を持つ

論文タイトル
Sharks and rays have the oldest vertebrate sex chromosome with unique sex determination mechanisms
論文タイトル(訳)
サメ・エイ類は独自の性決定機構を備えた脊椎動物最古の性染色体を持つ
DOI
10.1073/pnas.2513676122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.30
著者名(敬称略)
丹羽 大樹 工樂 樹洋 他
所属
国立遺伝学研究所分子生命史研究室
著者からのひと言
胚試料の組織学的観察に基づく性決定時期の見極めや、染色体構成に迫るエピゲノム情報解析、そしてY染色体の同定に繋がる細胞遺伝学的実験技術等を結集することにより、分子の研究が大きく遅れがちな軟骨魚類について、ゲノム配列の取得を超えて性決定のメカニズムの理解に近づくことができた。

抄訳

性は多くの生物が持っていますが、それを決める仕組みは同じではありません。私たちヒトを含む脊椎動物は遺伝的要因や胚発生時の温度など環境要因に頼った多様な性決定の仕組みを持っていますが、それがどのように進化してきたのかは大きな謎の一つです。サメやエイを含む軟骨魚類は、脊椎動物の他の系統とは深く隔たれ独自の進化を遂げてきた仲間ですが、他の系統とは対照的に軟骨魚類の性を決める仕組みはほとんど調べられていませんでした。総合研究大学院大学 大学院生の丹羽大樹、国立遺伝学研究所 分子生命史研究室の工樂樹洋教授(理化学研究所生命機能科学研究センター 客員研究員)、徳島大学大学院社会産業理工学研究部の宇野好宣准教授、沖縄美ら島財団総合研究センターの中村將参与、東京大学大気海洋研究所の髙木亙助教、および複数の水族館から成る研究グループは、軟骨魚類のゲノム配列の比較により、サメ・エイ類のX染色体が共通の遺伝子セットを保持し、Y染色体が大半の遺伝子を失っていること、そして、それらの性染色体が約3億年もの長い間保持されてきた可能性が高いことを明らかにしました。X染色体には雌雄での本数の差を埋め合わせる遺伝子量補償の仕組みが働いておらず、それこそがサメ・エイ類の性の決定に重要である可能性が示されました。本研究は、サメ・エイ類では他の脊椎動物とは異なる仕組みで性が決まっていることを示すものであり、性の成り立ちについてのこれまでの研究に一石を投じる成果です。

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