抄訳
生活の欧米化に伴い,動脈硬化性疾患の罹患率が増加している。適切な治療介入のためにはより早期の段階でのリスクの層別化が必要であり,有用なバイオマーカーが求めらる。私たちは,頸動脈エコーで測定した頸動脈内膜中膜複合体壁厚(intima-media thickness)IMTや,Doppler法を用いて測定した相対的拡張期血流速度(拡張期平均血流速度(Vd)/収縮期平均血流速度(Vs))が高血圧性臓器障害の進展と相関することを報告してきた。近年,アルドステロンが血圧上昇のみでなく,炎症を惹起することで動脈硬化を促進していることが明らかになってきた。アルドステロンが誘導する炎症性サイトカインとしてオステオポンチン(OPN)が報告されており,動脈硬化巣において細胞接着,遊走,増殖,炎症性細胞の活性化に関与している。今回私達は有症候性の心血管イベントの既往を持たない76人の高血圧患者において血漿OPN濃度と高血圧性臓器障害との関係を検討した。OPN濃度を中央値で2群にわけ,患者背景を比較したところ,高値群において低値群よりもIMTは肥厚しておりVd/Vsは低下していた。IMT, Vd/Vsはそれぞれ年齢,脈圧,OPNで規定された。また,OPNは年齢,脈圧,LDLコレステロール値などの動脈硬化危険因子との関連を認めなかったが,アルドステロンと正の相関を認めた。さらに,アルドステロンはOPNの独立した規定因子であった。本態性高血圧患者において血漿OPN値が頸動脈硬化と相関したことから,血漿OPN濃度は動脈硬化の指標の一つになると考えられた。