抄訳
卵巣子宮内膜症性嚢胞(以下、内膜症性嚢胞)から発生する卵巣癌は明細胞腺癌や類内膜腺癌が多く、他の卵巣癌とは発癌機序が異なると考えられる。我々は内膜症性嚢胞内で出血を繰り返すことで蓄積される赤血球由来の鉄に着目し、鉄による酸化ストレスが発癌に与える影響を解析した。内膜症性嚢胞内容液の平均鉄濃度は、他の良性嚢胞内容液より有意に高く、酸化ストレスやそのDNA損傷の指標である過酸化脂質、8-OHdG、抗酸化能の指標であるPAOは有意に高値であった(p<0.01)。組織染色では内膜症性嚢胞は良性卵巣嚢胞よりも有意に鉄沈着を認め(p<0.01)、内膜症合併卵巣癌では非合併卵巣癌よりも有意に8-OHdGを認めた(p<0.01)。In vitroにおいて、内膜症性嚢胞内容液を与えた細胞は他の良性嚢胞内容液を加えた細胞に比べて、有意に活性酸素種を多く含み、DNA突然変異の頻度も高かった(p<0.05)。鉄を高濃度含む内膜症性嚢胞を長期間保持すると、鉄に起因する酸化ストレスが卵巣子宮内膜症の癌化に寄与している可能性が示唆され、臨床的には嚢胞内容液の取り扱いが重要であると考えられた。