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2019/10/10

パーキンソン病原因遺伝子iPLA2-VIA/PLA2G6は生体膜リモデリングを介して、α-synucleinの安定性と神経機能を制御する

論文タイトル
Parkinson’s disease-associated iPLA2-VIA/PLA2G6 regulates neuronal functions and α-synuclein stability through membrane remodeling
論文タイトル(訳)
パーキンソン病原因遺伝子iPLA2-VIA/PLA2G6は生体膜リモデリングを介して、α-synucleinの安定性と神経機能を制御する
DOI
10.1073/pnas.1902958116
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
PNAS October 8, 2019 116 (41) 20689-20699
著者名(敬称略)
森 聡生, 今居 譲 他
所属
順天堂大学医学研究科パーキンソン病病態解明研究講座

抄訳

パーキンソン病は、アルツハイマー病に次いで罹患率の高い神経変性疾患である。その病変部位にはレヴィ小体と呼ばれる神経封入体が蓄積する。レヴィ小体の形成には前シナプスタンパク質α-Synucleinの凝集・線維化が関わっており、その凝集・線維化が神経変性を引き起こすと考えられている。しかし、パーキンソン病発症の最初のステップであるα-Synucleinの凝集のメカニズムは不明である。PARK14遺伝子座にリンクするパーキンソン病は、レヴィ小体の病理が顕著に認められる。PARK14の責任遺伝子PLA2G6/iPLA2-VIAはホスホリパーゼA2をコードし、その変異の違いにより脳の鉄沈着を伴う遺伝性神経変性疾患(NBIA)の原因にもなる。我々は、iPLA2-VIAノックアウトハエが発生初期から神経伝達の障害、ドーパミン神経を含む脳神経細胞の進行性の変性を示すことを見出した。ハエの脳の脂質解析から、iPLA2-VIA活性の喪失でアシル基の短縮が起こること、アシル基短縮がリン脂質膜の平衡状態を攪乱し小胞体ストレスを惹起することが明らかとなった。
ミトコンドリア-小胞体の接点に局在するC19orf12の変異もNBIAの原因となる。iPLA2-VIAノックアウトハエにおいて、ヒトiPLA2-VIAやC19orf12の過剰発現は、脂質変化、小胞体ストレス、ドーパミン神経変性の表現型を改善した。一方、疾患型のヒトiPLA2-VIA A80Tはこれらの表現型を改善しなかった。さらに、iPLA2-VIAノックアウトハエへのリノール酸の投与によって脂質異常が改善し、ノックアウトハエでみられるα-Synuclein凝集の促進が抑制できた。これらの結果から、iPLA2-VIAによる生体膜のリモデリング(アシル基の短縮抑制)が、ドーパミン神経の生存性だけでなくα-Synucleinの凝集抑制に必要であることが示唆された。

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