抄訳
近年、「最後の切り札」とされるカルバペネム系薬に耐性を獲得した病原細菌の蔓延が問題となっている。病原細菌における主要なカルバペネム耐性機構は、カルバペネム系薬を分解するmetallo-β-lactamase(MBL)の産生である。著者らは、4-amino-2-sulfanylbenzoic acid (以下ASB)がMBLの1つであるSMB-1を強く阻害することを見出した。ASBはチメロサール(ワクチンの防腐剤の一種)の代謝物であるチオサリチル酸を基に改良された化合物である。著者らは、ASBがカルボキシル基とチオール基を介し、MBLの活性中心にある2つの亜鉛イオンに結合することをX線結晶構造解析によりあきらかにした。また、ASBはMBLの中でもサブクラスB3に属するMBLを特異的に阻害することがわかった。これらの結果から、ASBの特異性を利用し、MBLのサブクラス識別が可能であると考えられた。さらに、マウス全身感染モデルを用いた実験結果から、メロペネムなどのカルバペネム系薬とASBの併用が、MBL産生菌による感染症の治療に有用である可能性が示唆された。