抄訳
コリスチン(CL)は多剤耐性グラム陰性桿菌感染症の最後の砦的治療薬であるが, プラスミド性CL耐性遺伝子mcrの拡散が世界的な問題となっている。mcrのリザーバーとして家畜が注目されているが, 国内の水系環境におけるmcrの実態は不明である。本研究では長野県内の下水処理場3施設の流入下水より検出されたCL耐性E. coli全7株を対象に, NGS解析を行った。その結果, 全株からmcr-1が認められ, 5株でIncX4プラスミド上に, 2株でIncI2プラスミド上に担われていた。これらのプラスミド全塩基配列は, 国内や中国をはじめとする海外で検出されたヒト臨床材料及び家畜由来CL耐性E. coliが保有するプラスミド全塩基配列と完全一致又は高い相同性を示した。さらに7株中5株がコリシンを含む家禽病原性大腸菌/新生児髄膜炎起因大腸菌関連病原遺伝子を同時に保有していた。そのうち4株でこれらがIncF typeのColVプラスミドに担われていたことが注目された。近年の異常気象による豪雨で地上への下水の溢水が頻繁化している。IncX4及びIncI2プラスミドはmcrの世界的な拡散に関与しており, 市中における薬剤耐性菌の拡散リスクの観点から水系環境の監視の重要性が示唆された。