抄訳
インフルエンザウイルスのゲノムは8本に分節化された1本鎖RNAであり、ウイルス由来RNAポリメラーゼであるPB1蛋白質(Polymerase Basic Protein 1)によって複製されるが、新規合成されたRNAゲノム内には1万塩基あたり約1個の頻度で変異が生じる。
著者らは、PB1ポリメラーゼを構成するアミノ酸の中で、82番目のTyr残基がゲノム複製忠実度の制御に重要であることを明らかにした。具体的には、インフルエンザウイルス実験室株(PR8株:A/Puerto Rico/8/1934/H1N1株)を用いて、PB1のTyr82残基をCys残基に置換した組換えウイルス(PR8-PB1-Y82C株)を作出して変異導入効率を算出した結果、PR8野生株より約2倍の頻度で複製エラーが起きやすいことがわかった。このような組換えPB1-Y82Cウイルスを高頻度変異導入株(Mutator株)として利用することで、実験室内においてウイルス進化速度を加速させることが可能となり、将来的に市中流行株として出現の可能性がある“抗原変異株”や“抗ウイルス薬耐性株”を先回りして予測するシステムの開発が期待できる。