抄訳
小腸内分泌L細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1(Glucagon-like peptide-1: GLP-1)は、膵β細胞からのグルコース依存的に起こるインスリン分泌を増強し、グルコース代謝の重要な役割を担う。GLP-1分泌は、消化管管腔内のグルコースや脂質、そしてアミノ酸などの栄養素により誘導される。この分泌には、細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)とcAMP濃度([cAMP]i)上昇が重要であるが、アミノ酸によるGLP-1分泌制御機構は不明である。
本研究では、マウス小腸内分泌L細胞由来GLUTag細胞株内での、L-グルタミンによる[Ca2+]iと[cAMP]i上昇機構について解析した。細胞外Na+濃度を低下させ、ナトリウム依存性グルコース輸送体の機能を阻害したところ、L-グルタミン投与による[Ca2+]i上昇は観察されなかった。一方、taste receptor type 1 member 3(TAS1R3)の阻害剤投与は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を抑制した。CRISPR/Cas9を用いて、TAS1R3と、それとヘテロ二量体を形成するTAS1R1の変異GLUTag細胞株を樹立した。TAS1R1変異GLUTag細胞株は、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇を示した。一方、一部のTAS1R3変異GLUTag細胞株では、[cAMP]i上昇やGLP-1分泌を示さなかった。これらの結果は、TAS1R3が、既知の経路とは異なる形で、L-グルタミンによる[cAMP]i上昇とGLP-1分泌に重要な役割を担っていることを示唆している。