抄訳
細胞の集団移動は組織形態形成や創傷治癒、癌の浸潤などに重要な働きをする細胞の振る舞いであるが、その分子機構は不明な点が多い。私たちは、これまで、RhoAのグアニンヌクレオチド交換因子であるSolo (別名ARHGEF40)が、細胞への張力負荷によるRhoAの活性化とケラチン8/18(K8/K18)繊維の細胞質における正常な配置に必要であることを明らかにしていた。本論文では、上皮細胞の集団移動に注目しSoloの機能解析を行った。腎上皮由来MDCK細胞においてSoloを発現抑制した場合、集団移動の速度が有意に加速し、一方、ばらばらな状態では個々の細胞の移動速度に影響しないことを発見した。また、Soloは、集団移動時の細胞の前後の細胞間接着部位に集積し、K8/K18繊維束の細胞前方への集積に必要であった。さらに、ROCKの阻害、K18やデスモソーム蛋白質のプラコグロビンの発現抑制によっても集団移動速度が上昇した。これらの結果から、Soloは、デスモソームを含む細胞間接着部位において、ケラチン繊維とRho-ROCK経路を介して前方の細胞を引っ張り返す力の発生に寄与し、集団移動のブレーキとして機能すると考えられる。