抄訳
サルモネラ属のネズミチフス菌は感染性胃腸炎の原因菌である。本菌は腸管内に定着することにより、感染を成立させるが、その定着メカニズムの全貌は明らかになっていない。これまでに、私たちはネズミチフス菌のペプチドグリカン(PG)アミダーゼに依存した細胞分裂が腸管内定着に寄与することを明らかにした。PGアミダーゼは特異的な活性化因子により制御されていることから、本研究では、ネズミチフス菌が保持するPGアミダーゼの活性化因子であるNlpDおよびEnvCがサルモネラの腸感染にどのような影響を及ぼすか否かを明らかにした。
マウスを用いた感染実験より、EnvCを発現しないネズミチフス菌株(envC変異株)では野生株と比較して、腸管内定着レベルが減弱した。また、誘導される腸炎レベルも減弱していた。PGアミダーゼを発現しないネズミチフス菌株における腸管内定着レベルの減弱は、胆汁酸に対する抵抗能の減弱が原因であったが、驚いたことに、envC変異株では走化性運動の減弱が主な要因であった。
本研究により、ネズミチフス菌の腸感染におけるPGアミダーゼ活性化因子の新たな役割が明らかになり、EnvCは本菌の腸感染を制御するためのターゲットとなる可能性が示唆された。