抄訳
がん抑制因子の働きが失われる場合の多くはDNAに傷が入る遺伝子変異に起因すると考えられてきたが、近年ではがん抑制因子が遺伝子変異していない癌患者も数多く報告されてきている。しかし、そのような遺伝子変異を伴わないがん増悪メカニズムには不明な点が多く残されていた。本研究では、がん抑制因子の働きを阻害する新たながん遺伝子として転写因子NRF3(NFE2L3)を発見した。NRF3は大腸癌をはじめとする様々なヒト腫瘍組織で発現が上昇していた。またNRF3過剰発現によって腫瘍が大きくなり転移しやすくなることをマウス解析によって確認した。興味深いことに、NRF3はタンパク質分解酵素であるプロテアソームの活性を上昇させ、p53やRetinoblastomaなどのがん抑制因子のタンパク質をユビキチン非依存的に分解することを見出した。このように本研究では、NRF3は遺伝子変異ではなく、タンパク質分解活性を異常に高めることでがん抑制因子の機能を阻害することを明らかにした。