抄訳
大脳化と直立二足歩行への適応により、ヒトでは新生児の頭部と母親の骨盤のサイズ比(児頭骨盤比)が大きく、特徴的に難産である。ヒトでは難産への対応として、子の頭と母親の骨盤の間で形態共変異(児頭骨盤共変異)が進化しているという仮説が近年提唱された。しかし、実際の親子で新生児の頭と母親の骨盤の形態関係を観察することはヒトでは実質的に不可能であり、間接的な証拠の提示に留まっていた。そこで我々は、ヒトと同様に児頭骨盤比が高いアカゲザルの妊娠後期個体(母親とその胎児)のCTデータを用いた3次元形態測定により、児頭骨盤共変異を直接的に検証した。児頭骨盤共変異は産道において特に強く発現すること、丸い頭と丸い断面の産道というように、子の頭と母親の骨盤の形態は互いに対応していることから、観察された児頭骨盤共変異は難産を緩和する機構であると考えられる。本研究結果から、児頭骨盤共変異はヒトのみでなく他の霊長類系統においても並行に、もしくは初期狭鼻類においてすでに進化していた可能性が示唆される。