抄訳
血管壁は、血流のずり応力や心拍出に伴う伸展刺激などのメカニカルストレスを細胞内の生化学的シグナルに変換する「メカノトランスダクション 」の機構を備えている。細胞外マトリクスは、血管壁の構造維持と同時に、力学的環境に応答しメカノトランスダクションを惹起するが、その詳細は不明である。本総説では、まず血管壁のメカニカルストレスを解説し、それらを感知するセンサーを紹介し、メカノトランスダクションをいくつかの主要な転写因子の活性経路に対応させて解説する。最後に、マトリクス・メカノトランスダクション におけるフィブロネクチン―内皮細胞、トロンボスポンジン1―平滑筋細胞を中心に、最近の動向を紹介する。内皮細胞や平滑筋細胞におけるメカノトランスダクションの異常が、動脈硬化症、高血圧、大動脈瘤などの血管疾患の分子基盤として関与していることが示唆され、血管疾患に対する新しい治療標的分子の発見が期待される。