抄訳
百日咳菌はヒトの気道に感染し、激しい咳を主症状とする百日咳を引き起こす。百日咳菌は「III型分泌装置」と呼ばれる針状の病原因子分泌装置を菌体膜上に保持している。菌はIII型分泌装置を介して病原因子 (III型分泌タンパク質) をヒトの細胞質内に注入することにより病原性を発揮する。しかし、百日咳菌がIII型分泌タンパク質を効率良く産生する培養条件は見出されていなかった。本研究では、還元剤であるアスコルビン酸 (ビタミンC) を培地から除去することにより、百日咳菌がIII型分泌タンパク質を効率的に産生することを発見した。また、この条件で培養した百日咳菌がIII型分泌タンパク質依存的な哺乳類細胞の膜破壊を誘導することを見出した。アスコルビン酸以外の還元剤を培地に添加した場合でも、III型分泌タンパク質の産生が抑制されたことから、百日咳菌は環境中の酸化還元電位を感知し、III型分泌タンパク質の産生を制御することが示唆された。