抄訳
哺乳類では、低栄養に陥ると生殖機能が抑制され、次の妊娠を回避するメカニズムが脳内に備わっている。ヒトや家畜を含む動物の生殖機能は、視床下部弓状核に局在するキスペプチンニューロンが、視床下部の性腺刺激ホルモン放出ホルモンニューロンを刺激し、ひいては下垂体からの性腺刺激ホルモン放出を促すことによってコントロールされる。我々は、後脳第4脳室に2デオキシ-D-グルコース(2DG、グルコース利用阻害剤)を投与した低栄養モデル雌ラットにおいて、室傍核のダイノルフィンAニューロンに神経活性化マーカが発現し、ダイノルフィン受容体(KOR)拮抗剤の脳内投与が2DGによる性腺刺激ホルモン分泌の抑制を阻害すること、また弓状核キスペプチンニューロンにKORが発現することを示した。以上より、低栄養時には、室傍核を起始核とするダイノルフィンAニューロンが活性化され、直接弓状核のキスペプチンニューロンを抑制することにより生殖機能が抑制されることが明らかとなった。本知見が、家畜の繁殖障害やヒトの生殖医療における不妊治療などに応用されることが期待される。