抄訳
脳卒中後1年以内のうつ病の頻度は高いが、脳卒中の急性期および亜急性期にその後のうつ病発症のリスクを予測した研究はほとんどない。
本研究は、脳梗塞の急性期および亜急性期に、代表的な評価尺度であるMADRSとPHQ-9により、脳梗塞慢性期の大うつ病発症を予測すること
を目的とした。脳梗塞発症6週以内の入院患者に対し、ベースラインと脳梗塞発症後3、6、9、12ヵ月(脳梗塞慢性期)にうつ病とうつ状態
を評価した。
うつ病は構造化面接SCIDを使用し、うつ状態はPHQ-9およびMADRSにより評価した。同定された因子は予測判別力を受動者動作特性曲線下面積
(AUROC)により検定した。各予測因子の閾値は感度と特異度を考慮して決定した。脳梗塞の急性期および亜急性期にうつ病に該当しない48
名中、脳梗塞慢性期にうつ病を発症した患者は5名(10.4%)であった。脳梗塞急性期および亜急性期のMADRS とPHQ-9のAUROC は0.83 と0.88
であり、両尺度ともに脳梗塞慢性期のうつ病発症を予測する有意に優れた尺度と考えられた。また、感度と特異度を考慮すると、脳梗塞急性期
および亜急性期に、MADRSのカットオフ値は11、PHQ-9は9であった。脳梗塞の急性期および亜急性期にMADRSスコアが11以上、PHQ-9スコアが9以
上の患者は、脳梗塞慢性期に大うつ病発症のリスクが高いことが示唆された。特にPHQ-9は、短時間で評価可能な自己評価尺度であり、脳梗塞の
急性期に関わる臨床医が、慢性期にうつ病発症を予測する有益な尺度と考えられた。