抄訳
尿路病原性大腸菌(UPEC)は、尿路感染症を引き起こす主要な起因菌である。本菌は、尿路系細胞に侵入しマイクロコロニーを形成する。本菌のマイクロコロニーは、様々な抗菌薬や宿主の免疫系に対して耐性を示すため、これがUPEC感染症の難治化につながると考えられている。本論文では、UPECの外膜蛋白質の1つであるOmpXが、腎臓に対する病原性に寄与することを明らかにした。ompX遺伝子を欠損させると、腎臓上皮細胞内におけるマイクロコロニー形成能が大きく低下し、それに伴って経尿道感染マウスの腎臓への感染が低減された。一方で、ompX欠損株は、野生型と比較して、鞭毛の発現量が低下しており、その結果不完全な運動性が見られた。鞭毛の構成成分であるフラジェリン蛋白質をコードする遺伝子fliCを欠損させると、ompX欠損株と同様、腎臓上皮細胞内におけるマイクロコロニー形成能が大きく低下した。さらに、fliC欠損株からompXを欠損させても、さらなるマイクロコロニー形成能の低下は観察されなかった。以上の結果から、UPECの鞭毛は、腎臓上皮細胞に対する病原性に関与すること、そしてOmpXはその鞭毛の発現に寄与することが示された。本研究結果は、UPECのOmpXが、新たな病原性因子であり、本菌による感染症に対する治療標的になりうる可能性を示唆している。