抄訳
ジョロウグモ亜目のクモ牽引糸は、優れた伸縮性と引張強度を兼ね備えた比類のない強靭さが特徴であり、持続可能なバイオポリマー素材としての産業応用が期待されている。本研究では、クモ牽引糸の分子組成を明らかにするとともに、その機械的特性の発現における構成要素の役割を明らかにすることを目的として、ジョロウグモ亜目の4種のクモを対象に、高品質なゲノム配列の決定、絹糸腺のトランスクリプトミクス、牽引糸タンパクのプロテオミクスを組み合わせたマルチオミクス解析を行った。その結果、ジョロウグモ亜科に特有のクモ糸遺伝子スピドロインであるMaSp3Bと、スピドロイン以外のいくつかのSpiCEタンパク質が一貫して存在していることが確認された。これらの成分を人工的に合成し、in vitroで組み合わせたところ、従来考えられていたMaSp1とMaSp2に加えて、新規に見つかったMaSp3BとSpiCEを持つ多成分系であることがクモ牽引糸の機械的特性を実現するために不可欠であることがわかった。