抄訳
糖質コルチコイドを用いたステロイド治療の中止後も高血糖が改善せず、糖尿病が遷延すると「メタステロイド糖尿病」と称されるが、その詳細な病態は解明されていない。本研究では、一時的にステロイド治療を受けその後中止した当院通院患者の、血糖値の経時推移を評価し、もともと耐糖能異常を有しない群において、ステロイド中止後の高血糖が遷延する傾向にあることを見出した。野生型マウスにデキサメサゾン(Dexa)を1か月間負荷して中止したところ、Dexa中止後も持続する高血糖を認めた。その機構を検討したところ、glucagon-like peptide 1 (GLP-1)の分解酵素であるdipeptidyl peptidase-4 (DPP-4)の活性亢進を見出した。Dpp-4遺伝子プロモーター領域のヒストンアセチル化が亢進していたことから、Dexa負荷後の遷延する耐糖能異常にDpp-4遺伝子のエピゲノム変容が関与すると結論した。培養細胞を用いて、Dexa負荷に伴うDpp-4遺伝子エピゲノム変容機構を検討したところ、ヒストンアセチル基転移酵素(histone acetyl- transferase : HAT)と、ヒストン脱アセチル化酵素であるサーチュインの双方が、Dpp-4遺伝子の発現とエピゲノム変容に関与すると考えられた。以上から、糖質コルチコイドによる高血糖ならびにメタステロイド糖尿病に対して、Dpp-4遺伝子のエピゲノム変容に着目した治療が有用であると示唆された。