抄訳
神経変性疾患には、凝集したタンパク質が蓄積するという特徴と、ある特定の神経細胞のタイプが変性するという特徴がある。この二つの特徴の因果関係は、理論的には、疾患に対して脆弱な神経細胞において疾患に関連するタンパク質を相転移させることで検証可能であると考えられるが、実際にはそのような実験手法は限られている。この論文で我々は、小型熱帯魚ゼブラフィッシュの脊髄運動ニューロンにおいて、DNA/RNA結合タンパク質TDP-43の相転移を誘導することで、筋萎縮性側索硬化症(ALS)における運動ニューロンの変性をモデル化する手法を紹介する。ゼブラフィッシュ仔魚は身体組織の透明性が高いために、光を吸収すると相転移を起こす光遺伝学型TDP-43を脊髄運動ニューロンで発現させた仔魚に向かって青色のLED光を照射するだけで、TDP-43の相転移や凝集体の形成を誘導することができる。このプロトコルを用いれば、ALSに対して脆弱な細胞環境において進行するTDP-43の相転移の研究が可能になり、異常なTDP-43の相転移が、運動ニューロンや身体運動に与える影響をより詳しく解析できるようになると期待される。