抄訳
真菌は一般的に水分活性の高い湿潤な環境を好むが、好乾性真菌とよばれる水分活性の低い環境で良好に菌糸成長する特殊な生理的特性をもつ菌群がしられている。Aspergillus 属(コウジカビ属)Restricti 節は好乾性真菌の代表的な分類群の一つで、その中には食品衛生や文化財劣化の点で重要な菌種が複数含まれている。著者らは日本国内のハウスダストと蜂蜜に棲む好乾性真菌の多様性調査を進める中で、本分類群の未記載種と考えられる菌株を獲得した。複数遺伝子を対象とした分子系統学的解析の結果、これらの菌株は本分類群の祖先的種としてしられるAspergillus halophilicusと姉妹群となることが分かった。形態学的観察を行った結果、A. halophilicusと同様ホモタリックで子嚢果を形成したが、子嚢果の大きさと子嚢胞子の表面構造において両者の間で違いがみられた。また、A. halophilicusと異なり培地上で無性胞子の形成を誘導することができなかった。これらの結果に基づき今回我々が獲得した菌株に対し新種 Aspergillus verrucosus を提唱した。