抄訳
キチンは,真菌の細胞壁に含まれる直鎖状の多糖です。土壌にキチンを添加すると,真菌を病原とする植物病が低減されることが報告されてきました。キチン添加によって増加するキチン分解細菌が病害低減効果の一要因と考えられています。前報では、キチン添加土壌から分離したキチン細菌Lysobacter sp. 5-21aTがメチオニン (Met) 要求性を示すことを報じました(Iwasakiら2020)。本論文では,5-21aTがビタミンB12(VB12) 要求株であることを示すとともに、その遺伝的背景を探るために行ったゲノム解析の結果を報告しています。また、近縁株とのゲノム相同性の比較や,化学分類学的,表現型および系統学的データに基づいて,5-21aTがLyobacter属の新種であることを提唱し,Lyobacter auxotrophicus と命名しました。VB12要求性が5-21aTの近縁株にも共通した性質であること,VB12依存性Met合成酵素の遺伝子しか持たないために5-21aTのMet合成にはVB12が必要であると考えられること,また,5-21aTがVB12合成の上流 (コリン環合成) 経路の遺伝子を持っていないためにVB12をde novo合成できないことがわかりました。