抄訳
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症(Isolated ACTH Deficiency; IAD)はまれな疾患であり、高フェリチン血症の原因としてはほとんど知られていない。私たちは、軽度の貧血(Hb 11.3g/dL)と高フェリチン血症(1796μg/L)を呈したIADの症例について報告する。患者は70歳代男性で、正常腎機能にも関わらず血清エリスロポエチン値の相対的低下(14.2 IU/L)と血清ヘプシジン-25値の上昇(91.7μg/dL)を認めた。IAD診断後、ヒドロコルチゾンの補充(15mg/日)により、貧血は速やかに改善し、血清ヘプシジン-25値と血清フェリチン値は正常化した。本症例では、副腎不全に伴うグルココルチコイド欠乏が、赤血球造血と抗炎症活性を抑制し、血清ヘプシジン-25値の上昇と高フェリチン血症の発症に関与したと考えられた。IADの初期症状は、全身倦怠感、食欲不振、体重減少、血液量の減少など非特異的であるため、診断が遅れる可能性がある。原因不明の貧血と高フェリチン血症を持つ患者においては、IADを含む副腎不全の可能性を鑑別診断として考慮すべきである。