抄訳
一般的に「きのこ」と総称される糸状菌の大部分は「木材腐朽菌」と呼ばれる担子菌類に分類されますが、木材腐朽菌はさらに腐朽した後の木材の色の違いによって「白色腐朽菌」と「褐色腐朽菌」とに大別されます。白色腐朽菌は、木材の三大成分であるセルロース、ヘミセルロース、リグニンを一様に分解するのに対して、褐色腐朽菌は主に多糖(セルロースとヘミセルロース)を選択的に分解することから、これまで両者の違いはリグニンの分解性の違いによって説明されてきました。そこで本研究では、232種類の木材腐朽菌ゲノムに含まれる11万4千の糖関連酵素遺伝子の数を、ランダムフォレストという機械学習アルゴリズムを用いて学習させ、それらの遺伝子数の違いが腐朽様式の違いに与える影響を調べました。その結果、糖加水分解酵素(GH)ファミリー7に属するセロビオヒドロラーゼ(Cel7)やリグニン分解酵素として代表的なAAファミリー2のペルオキシダーゼも両腐朽様式を見分けるために重要とされましたが、もっとも重要であったのがセルロースの表面を酸化して他のセルロース分解酵素の働きを助けるLPMOであることが分かりました。この発見は、昨今多糖の分解での機能が注目されてきたLPMOが、リグニンの分解にも関与している可能性を示唆するとともに、人間が見つけることができない両腐朽様式での違いを、機械学習で発見できることを明らかにしました。木材腐朽菌は地球上で唯一木材を単独で分解できる生き物であることから、このような生物種によって木の成分がどのように利用されているかを知ることで、より高度なバイオマスの利用法が期待できます。