抄訳
緑藻の一種であるボルボックスは明るい方へ移動する正の走光性を示します。ボルボックスには細胞間の複雑な情報伝達機構は備わっておらず、個体の走光性は「暗から明の照度変化に対する鞭毛運動の一時停止」という個々の細胞のシンプルな応答により実現されています。さらに、ボルボックスは周囲の明るさに応じて走光性の感度を変えることができます。しかし、この感度調節機構が体細胞に備わっている機構であるのか、細胞集合体として個体に現れる性質なのかは定かでありませんでした。本論文では、感度調節機構が細胞に備わる性質であることを明らかにするとともに、感度の高い細胞を前方に、低い細胞を後方に配置させることで、個体の動きの巧妙な制御を実現している可能性があることを示しました。本研究で発見された位置に依存した細胞の性質の違いは、細胞の機能分化と多細胞化の関係や、細胞数に応じた生物の生存戦略という観点からも興味深い結果といえます。また、単純な機構で高度な機能が創発するしくみは、マイクロロボットや自動制御システムの開発への応用が期待されます。