抄訳
ヒトは睡眠中、レム睡眠とノンレム睡眠という異なる2つのステージを交互に繰り返す。レム睡眠は、鮮明な夢をしばしば伴うことから、一般社会でも注目されてきたが、レム睡眠がどのような仕組みで生じるのかは大きな謎であった。
また、最近の疫学研究によると、レム睡眠の異常はさまざまな疾患や心身の不調の前兆であることも明らかとなってきた。特に近年、パーキンソン病の前駆症状として、レム睡眠行動障害が注目されている。レム睡眠行動障害では、レム睡眠中に本来起こるはずの筋脱力に異常が生じた結果、夢の内容を反映した発声や体動が出現する。パーキンソン病では、レム睡眠行動障害に加え多くの患者で疾患が進むにつれてレム睡眠そのものが失われていく。しかしながら、その原因となる神経メカニズムもまたわかっていなかった。
今回、私たちはマウスを用いて世界で初めてレム睡眠に中枢的な役割を果たす脳幹の神経回路を明らかにした。また、同定した神経回路を構成する特定の神経細胞群が、レム睡眠行動障害を伴うヒトのパーキンソン病患者の死後脳において特異的に脱落していることも発見し、レム睡眠行動障害の原因の一端を明らかにした。