抄訳
メカノバイオロジー分野では、生きている細胞内の小器官の物理的性質を調べるために、非侵襲な力計測法の開発が希求されてきた。細胞小器官は熱ノイズ等を受けてゆらいでいるが、本研究では物理学の最先端の理論(ゆらぎの定理)を利用して、小器官のゆらぐ運動の解析から小器官にはたらく力を求める新しい力測定法を提案した。物理学の知見から、分子のゆらぐ運動は単なるランダムなノイズではなく、分子のエネルギーと関連している。具体的には小器官として、神経細胞軸索で微小管に沿ってタンパク質分子モーターに輸送されるエンドソームに着目した。エンドソーム輸送の力はタンパク質分子モーターのATP(アデノシン三リン酸)加水分解によって生じる。エンドソームのゆらぐ運動は蛍光イメージングで容易に観察することができる。非侵襲力測定法を用いてエンドソームにはたらく力を計測した結果、1つのエンドソームは複数のタンパク質分子モーターに協同で輸送されていることが分かった。協同輸送により安定した軸索輸送が実現している。