2016年1月に英国王立協会,eLife,PLOSが中心となりORCID義務化を誓約する公開書簡(Open Letter)を発出し8つの出版者が署名した。学術誌に著者が投稿する際にORCID識別子の提示を義務付ける出版者のイニシアチブとして話題を呼び小誌270号でも取り上げた。
その後の進展に関する報告書が2017年4月13日付でORCID, Inc.より「ORCID Open Letter - One Year On Report 」として公開されている。
ORICDの登録・利用数への影響に関しては,各出版者の義務化発効の時に同期し急激な増加を見せ,その後も高止まりしている様子が,The Royal Society,eLife,AGU,Science,IEEEの2015年9月から2016年10月までの数値を示した折線グラフから読み取れる(下図)。また,Wileyの登録・利用数は2016年11月では48,383だったが,11月終盤に787誌を義務化した後の12月には159,331を数えた。

義務化方針に対する著者やコミュニティーからのフィードバックについては,ほとんどの出版者が正負を問わず受けていないと回答した。苦情の類に関してはAGUが義務化後の投稿23,184で2件,RSCが約18,000中1件受けた。
問題点として,研究者がORCIDレコードを複数作成してしまう事例があることや,ORCIDレコードへの記載事項が少なく,特に所属機関の情報がない場合が多いことなどが報告されている。また,ORCIDが著者にもたらす恩恵として重要な,CrossrefとORCIDのシステム連携により実現される自動アップデート機能がまだ十分理解されていない点も挙げられた。ORCID識別子付きで投稿された文献が出版のワークフローの中でCrossrefによりDOIを付与される際に,著者のORCIDレコードにその著作物が転記される。これにより業績管理の効率化が期待されるが,この機能を有効化するためには,著者がCrossrefにORCIDレコードへのアクセスを許す必要がある。全般的にこの許諾は50%に留まっている。
2016年1月現在でORCIDを取得した研究者の数は世界で190万人だったが,最新の数値では320万人を突破し国内の登録者は58,000人にまで拡大している。2016年末の時点で17出版者の1553誌が義務化されている。現時点で公開書簡に署名した出版者は27にまで増え,その中にはまだ義務化の実効日を決めていないSpringer Natureも含まれている。
ORCIDは研究者の名前による同定を改善するだけでなく,学術コミュニティー全体の労力を軽減と効率化を実現する。学術出版者が義務化することで普及と理解が更に進むことを期待したい。
・ORCID Open Letter: One Year On
https://figshare.com/articles/ORCID_Open_Letter_-_One_Year_On_Report/4828312
・ユサコニュース 第270号 出版者によるORCID義務化の取り組み
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=163&dispmid=605
・宮入暢子 研究者識別子ORCID:活動状況と今後の展望,情報管理 vol.59, no.1
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/59/1/59_19/_article/-char/ja/
刊行後の追記
ORCID義務化を誓約する公開書簡(Open Letter)に署名した出版社の最新情報は以下のURLから確認できます。
https://orcid.org/content/requiring-orcid-publication-workflows-open-letter