一般的なワープロを使って複数の著者と学術論文を共同執筆する場合には,原稿ファイルの送受信や編集などの事務的作業に時間を奪われることが多い。最近では,オンライン上の執筆ツールが広まりつつあり,このような作業の効率化が図られている。
英WriteLaTeX 社が提供するOverleafはクラウド上のLaTeX原稿執筆環境として2012年のサービス開始後,現在までに180ヶ国60万人以上の登録利用者を数え,作成された文書が800万本を超えるサービスに成長している。LaTeXとはTeXの上に構築されている組版システムであり,Wordなどと違って数式の体裁を細かく指定することができる。しかし,使用にあたってはTeX・LaTeXの環境をPC内に構築し,記述方法を習得する必要もある。Overleafではこのような手間がかからず,ブラウザさえあればLaTeXのソースコードと実際の出力結果を同時に表示することができ,更にLaTeXのソースコードに設定ミスがあるとその部分を指摘する機能もあり記述も簡便にできる。
複数の著者と同時に執筆するための共同編集機能,修正履歴やバージョンの管理ができるほか,主要なジャーナル出版者や投稿システムとの連携が進みつつあり,編集者との工程を効率化するメリットも大きい。すでにSpringer Nature,OUP,PNAS,IEEE,RSCなどはOverleafでジャーナル個別のテンプレートを用意し,刊行版と同じレイアウトで論文執筆ができ,そのまま投稿し,同一のファイル上で編集・校正を行うことができ,編集作業と工程の効率化が実現できる。
参考文献リストの作成にあたっては,文献管理ツールのMendeley,Zoteroなどと連携し取込みが可能なほかBibTeX形式ファイルからのインポートもサポートしている。
Overleafの基本機能は無料で使用することができるが,文書に添付可能なファイル数の拡張,保存容量の増量やアクセス権の制限機能やDropboxへのクイックセーブ機能,編集履歴閲覧機能やユーザーサポートを追加したProプランは毎月10数ドルの利用料が設定されている。機関契約を結べば,所属者全員がProの機能を利用できるようになるほか,管理者向けの利用統計表示機能も提供しており,導入機関としてケンブリッジ大学,スタンフォード大学など15がリストされている。
今後,このようなサービスの利用が研究者の定着し,論文執筆やジャーナルの編集の環境がどのように変化していくのか注視したい。
・Overleafホームページ
https://www.overleaf.com/