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2005/05/31:第152号医学図書館の将来:2015年における役割
 

医学図書館の将来:2015年における役割
近年の情報提供における科学技術の発達,特にインターネットの普及に
ともない,学術情報の意味・価値観が大きく変貌を遂げてきている。Open
Accessの動向に見られるように,政府機関が資金を提供した研究結果は
無料で公開されるべきであるとの意見が大勢を占め,従来までは限られた
専門家のみに利用されてきた情報が一般にも公開されつつある。また,医療
現場においても,インフォームドコンセントの概念が広がる中,患者自身が
疾病情報を収集することで,治療方法における意思決定に積極的に介入する
ケースが増えてきている。

 このように学術情報の位置付けが変化する中,学術情報を利用者に提供
する側,つまり図書館や図書館員においても,今後のその存在意義や役割に
ついて広く議論が進められてきた。中でも,米国国立医学図書館(National
Library of Medicine:NLM)の館長であるドナルド・リンドバーグ氏らは,
10年後の医学図書館のあり方について考察し,本年3月17日号のNew England
Journal of Medicineに,「2015-The Future of Medical Libraries」
と題した論評を発表している。

 リンドバーグ氏らはまず,医学図書館の空間的役割について,従来まで紙
媒体で収集していた情報が電子化されることで,利用者に広大な空間を開放
することが可能になり,医学図書館はより多様な目的に対応したサービスを
提供するようになると予測している。様々な電子情報へのアクセスを可能にし,
学際的なグループ研究やミーティングに適したスペースを提供することが重要
となり,また,病棟や待合室などから離れた静寂なスペースを患者に提供する
ことで,医学図書館の存在意義は以前よりも高まるであろうと見ている。

 当論評ではさらに,図書館員の今後の存在意義についても言及している。 
多くの電子情報を集積した医学図書館では,遺伝情報,臨床結果,医学文献
などが相互にリンクされるようになり,より複雑で専門的な情報を利用する
ことが可能になるが,このような電子情報は,適正に選択・体系化され,緻密
な分析やリンキング作業がなされることで初めて利用価値が見出されるもので
ある。よって,医学図書館が電子化されても,情報収集や分析に関する高い
知識を兼ね備えた図書館員の役割は非常に重要なものになると予測される。

 また,図書館員の新たな役割として,図書館での業務に留まらず,より広範囲
な場所で活動領域を見出すことになると予測している。例えば,医師による
治療グループの一員として,診断方法や治療方法に関する適切なエビデンスを
医師に提供するよう要求されるようになり,また,EBM教育担当として,医師を
指導する役職に付く可能性がある。

 リンドバーグ氏らは最後に,これらの見解は予測に過ぎず,その通りに実現
しないこともあるとしているが,現在は,医学図書館や図書館員がその存在意義
を高め,より高質なサービスを提供するために飛躍する絶好の機会であると
述べている。日本においても,医学情報の電子化や,臨床現場でのEBMの活用は
すでに浸透しつつあり,それらをサポートするデータベースやクリニカルレファ
レンスツールも広く利用されてきている。また,患者向け図書室を設立する動き
も増えてきており,医学情報に対する概念も様変わりしつつある。リンドバーグ
氏らが医学図書館の将来について予測したことが,今後どのように具現化されて
いくのか,大いに注目されるところである。

<参考文献>
Lindberg DA, Humphreys BL. 2015--the future of medical libraries.
N Engl J Med 2005;352(11):1067-70.
http://content.nejm.org/cgi/content/extract/352/11/1067


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