英国ラフバラ大学の図書館情報統計部門(LISU:Library and Information Statistics Unit)は,
主要出版社の学術ジャーナル価格動向についてまとめた報告書「Trends in Scholarly Journal
Prices 2000-2006」を発表した。LISUは2004年に,オックスフォード大学出版局の一部門である
オックスフォード・ジャーナルの委託により「Scholarly Journal Prices:Selected Trends and
Comparisons」を発行しており,本報告書はその改定版として発行されたものである。
今回発表された報告書では,以下の11の主要学術出版社による生物医学分野と社会科学分野の
ジャーナル約8,000誌について価格動向を分析している。出版社ごとに2000年から2006年までの
ジャーナルの価格中央値(median)を算出し,ページあたりの単価やインパクトファクターとの関連,
6年間の価格上昇率など詳細なデータがまとめられている。
・Blackwell Publishing
・Cambridge University Press
・Elsevier
・Lippincott Williams and Wilkins
・Nature (specialist journals)
・Oxford Journals
・Springer
・Sage
・Taylor & Francis
・University of Chicago Press
・Wiley
報告書によると,出版社ごとにジャーナルの価格中央値は大きく異なっており,2006年の
価格中央値は,生物医学分野ではCambridge University Pressが198ポンドと最も低く,Elsevierが
859ポンドと最も高かったという。同様に社会科学分野では,University of Chicago Pressの
119ポンドからWileyの513ポンドまでの価格差があったと報告されている。
2000年と2006年の価格を比較した価格上昇率は,生物医学分野ではSageが104%と最も大きく,
6年間で倍以上の価格上昇となった。一方,価格中央値が最も高かったElsevierの価格上昇率は
51%で,主要11出版社の中では3番目に小さかった。社会科学分野では,価格中央値が最も低い
University of Chicago Pressの価格上昇率が120%で最も大きく,価格中央値が最も高いWileyの
価格上昇率は61%であった。
また,2006年のジャーナル価格をその2005年のインパクトファクターで割った価格,つまり
インパクトファクター1ポイントに対する価格を比較したところ,生物医学分野ではSpringerが
552ポンドと最も高く,Elsevierの474ポンドが次に高かった。これに対し,Oxford Journalsが186ポンドと
最も低く,インパクトファクターで算出して最も費用対効果が高い出版社であるとの結果が示された。
同様に社会科学分野では,Springerが775ポンドで最も高く,University of Chicago Pressが
110ポンドで最も低かった。
本年3月に,American Chemical Societyが,論文数,インパクトファクター,ダウンロードされた
回数を価格算定要素とする「value-based pricing」と呼ばれる電子ジャーナルの新価格体系を
発表するなど,学術ジャーナルの適切な価格モデルを模索する動きは続いている(本誌173号参照)。
本報告書が提供する詳細な分析が,現在提案されている学術ジャーナルの多様な価格モデルの
調査・分析へと発展し,ジャーナルの価格モデルをめぐる研究が発展することが期待される。
<参考URL>
・ラフバラ大学図書館情報統計部門(LISU)ホームページ:
Trends in Scholarly Journal Prices 2000-2006
http://www.lboro.ac.uk/departments/dils/lisu/pages/publications/oup2.html
・本誌第148号【トピックス】
「英国ラフバラ大学:学術ジャーナル価格動向の報告書を公開」
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=27&dispmid=605
・本誌第173号【トピックス】
「学術出版社の電子コンテンツ課金:Value-Based Pricing」
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=55&dispmid=605