英国情報システム合同委員会(JISC)のデータセンターであるEDINA(所在:エディンバラ大学)は,
2008年12月1日から2009年4月30日までの期間でOpenURLリンクリゾルバーに記録される利用データ
の活用に関する調査プロジェクト(Shared OpenURL Data Infrastructure Investigation)を実施しその
最終レポートを公開した。
本プロジェクトの目的は,OpenURLのリンキングデータの解析による継続的なサービス提供基盤を
構築するために英国でどのような骨組みにすべきか調査することである。プロジェクトチームは,リンク
サーバのデータ共有とその利用に関連する技術面・法律面・管理面での問題に一定の考察を試みた。
英国で,このようなイニシアチブが早期に実施される背景としては,EDINAが運営する OpenURL
ルータと呼ばれるサービスが提供されていることがあげられる。これは,全ての高等教育・継続教育
(HE・FE)機関が設置するリンクリゾルバーの集中レジストリとして機能するサービスである。
通常のリンキングモデルでは,エンドユーザのリンクリクエストはその所属機関のリゾルバーに送られ
,機関の購読情報に適したサービスにナビゲートされるが,このOpenURLルータを利用した場合は,
全てのエンドユーザのリクエストがOpenURLルータに送られ,その後,エンドユーザの認証情報に基
づきその所属機関のリゾルバーにリダイレクトされる。各サービスプロバイダーに登録するベース
URLは全てopenurl.ac.ukに統一されるため,リンクリゾルバーの設定作業が簡略化される。
本プロジェクトはこのOpenURLルータの利用ログもその対象とした。
技術的側面の結果
レポートでは,リンクリゾルバーの利用データを共有する際の必要条件として,1)機関リゾルバー
からデータをハーベストすること,2)データに(匿名化された)利用者情報,アイテム情報,日時情報を
含むこと,3)参加機関の前向きな姿勢(ハーベストメカニズムへのアクセス許可,ローカル作業への
理解など),4)利用データへのアクセス・ダウンロードを可能にするメカニズム,5)データを蓄積する
中枢基盤の構築などの条件が提示された。OpenURLルータでは各機関のリゾルバーからハーベスト
する必要がなく,簡単で入手コストがあまりかからない半面,情報が限られているため,分析に使う
ことは難しいと報告された。
法律面
法律面では,IPアドレスが個人データの構成要素にあたるか否かについての協議が進んだ。
個人データとは,特定可能な生存する個人に関連するデータを指す。JISCが2008年9月に発表した
利用統計に関するレポートによると,IPアドレスの登録と処理,cookiesの利用は,プライバシー法に
違反する可能性があると発表されている。一方で,IPアドレスは個人よりもコンピュータを識別するもの
であり,その利用目的がウェブサイト利用のパターンの集合を分析するためであるのならば,必ずしも
個人データではなく,データ保護法の対象にならないという意見もあり,イギリスでは現在議論中の
テーマとされる。
管理面
図書館は,原則的にはデータの共有に前向きであるが,その条件として,データ共有により生じる
明確なメリット,データの容易な貢献またはリゾルバーベンダーからのダイレクト取得,利用者と機関
双方の匿名性の確保,非営利目的での使用,データ保護法の厳守などが挙げられた。 大量データ
の処理設備についてはNational Data Centerで可能であることが挙げられたが,これに関する実現
可能性は本段階ではクリアされなかった。
本プロジェクトは,リンクリゾルバーの利用ログが持つ潜在的な利用可能性を探る上でも興味深い。
米ロスアラモス国立研究所研究図書館が推進するMESUR(Metrics from Scholarly Usage of
Resources)プロジェクトでの取組みや,Ex Libris社による論文レコメンダーサービス「bX」の提供なども
あり,今後,新たな展開が期待される分野と思われる。
・EDINAサイト
http://edina.ac.uk/
・Shared OpenURL Data Infrastructure Investigtionプロジェクト最終レポート
http://edina.ac.uk/projects/docs/090713OpenURLDataReportFinalSubmittedToJISC.pdf
・OpenURL Router
http://openurl.ac.uk/doc/
・本誌第184号トピックス:「研究活動評価の新たな指標を求めて-MESUR-プロジェクト」
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=67&dispmid=605