オンラインで提供される学術情報資源の利用実績レポートに関しては,電子ジャーナルおよびデータベース向けCOUNTER実務指針が標準となりつつあるが,現状では,サービスベンダー別にタイトルごとの利用データを提供するにとどまっている。複数の電子ジャーナルサービスから同一の雑誌が提供されたり,リポジトリで論文単位の公開も進んできていることを考えると,このレポートが果たす役割は十分とはいえない。
このような背景の中,PIRUS(Publisher and Institutional Repository Usage Statistics)は論文や
研究成果をオンライン上に発信する出版者やリポジトリ設置機関の利用データを標準化された方法で統合し,有用な論文単位のレポートをCOUNTERの実務指針に新たに加えることを目的としたプロジェクトとして2008年8月に誕生した。近年のリポジトリ拡大とそれにともなう収録論文数の増加,利用実績に基づく新たな指標への期待,研究者や資金提供機関からの信頼できる指標への要望,技術的な
発展なども,本プロジェクトの実施を後押しした要因として挙げられる。
PIRUSの報告書は2009年1月に発表されているが,このプロジェクトを実現するためにはデータの
集約と処理を集中する中立的な第三機関が必要であり,その条件も示されている。基準としては,
主要な関係グループ(著者,図書館,出版者,資金提供機関)からの信頼を得られる独立した機関であること,関連メタデータを受取・保管・処理し,利用統計を作成するための,実証された機能を有すること,大量のメタデータや利用統計の操作が可能であること,などが挙げられている。
複数のバージョンを持つ論文の取扱いに関しては,JISCによる既存のVERSIONSプロジェクトや NISO/ALPSPによるJAV Technical Working Groupの勧告レポートとの整合性をとり,“アクセプト
された原稿”とそれ以降のバージョンのみをカウントする方針も示されている。
データの統合を技術的に実現するために,追跡コード(tracker code)を提唱している。これは利用統計の作成や整理統合,関連出版者へのデータ送信に責任を負う第三機関,また,ローカルリポジトリサーバの双方に対してメッセージを送信するためのコードである。追跡コードによって作られるOpenURL Context Objectsには,アクセスした日付/時間,識別子情報,形式(html / pdf),バージョンなどの情報が含まれるべきで,個々のアイテムを正確に同定する役割の識別子にはDOIを採用することが勧告されている。
現在,PIRUSプロジェクトを引き継ぎ,2009年10月から2010年12月までの予定でPIRUS2プロジェクトが実施されている。その目的は,リポジトリが保存するあらゆる種類のファイルに拡張可能な,COUNTER準拠の利用統計を作成・共有するための一連のオープンソース・プログラムを構築すること,出版者/リポジトリのアイテムレベルの利用統計サービスプロトタイプを開発すること,リポジトリ設置機関と外部が利用するために有用なレポートを定義することと発表されている。学術コミュニティーに大きなインパクトのあるプロジェクトとしてその成果が待望される。
・PIRUS最終報告書
http://www.jisc.ac.uk/media/documents/programmes/pals3/pirus_finalreport.pdf
・COUNTER準拠のXMLプロトタイプ:Article Report1
http://cclibweb-1.dmz.cranfield.ac.uk/pirus/AR1.xml
・JISC PIRUS2サイト
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/inf11/pirus2.aspx
・PIRUS2サイト
http://www.cranfieldlibrary.cranfield.ac.uk/pirus2/tiki-index.php
・本誌第187号トピックス「顕著化してきた論文バージョニング問題」
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=70&dispmid=605