英国情報システム合同委員会(JISC)が2009年に発表したレポートでは,オープンアクセス(OA)出版にかかる一論文あたりの平均費用を1,524ポンドと試算している(eオンリーの場合)。多くの出版者は,この費用を論文の掲載が決まった著者に負担してもらうモデルを採用している。実例をみると,BioMed Centralは$660〜2,415,PLoSは$1,350〜2,900を課している。JISCやドイツ研究振興協会(DFG)などと協力関係にあるKnowledge Exchangeは,2010年12月,論文の掲載可否にかかわらず全ての投稿著者に費用負担を求めた場合の効果に関する報告書を発表した。
掲載が決まった著者のみが費用を負担する雑誌では,掲載論文のほか不掲載論文にも査読等の費用がかかるため投稿論文数が多いほど出版費用が高くなり,掲載論文著者が支払う費用も高くなる傾向がある。報告書では,全ての投稿著者が支払う費用を,年間投稿論文数4,000本でリジェクト率90%のOA誌に$150,1,000本でリジェクト率72%のOA誌に$150,300本でリジェクト率54%のOA誌に$100という3つの条件を想定して,費用負担を求めた場合に,掲載論文著者が支払う費用がどの程度削減されるかについて試算がなされた。その結果,4,000本の雑誌で$2,500を$1,150に,1,000本の雑誌で$2,000を$1,550に,300本の雑誌で$1,500を$1,400に削減でき,論文のリジェクト率が70%以上の場合には掲載論文著者の負担を減らすことができるとしている。報告書によると,経営・経済・金融系を中心とする複数の学術ジャーナルでは,全投稿著者に課金するモデルが既に採用されているものが比較的多く,$50〜200の間で設定されている。OA誌では,Wiley社のHereditas,Polish Physiological SocietyのJ Physiology Pharmacology,JMIRのJournal of Medical Internet Researchなどが挙げられる。
出版者側からは,掲載論文著者にだけ課金が必要となる雑誌との競合,論文投稿数の減少,モデル移行にかかる費用,著者への負担などへの不安が挙げられ,現時点では利点よりも潜在的なリスクの方が高いと認識する回答も目立った。報告書では,資金提供者やOA出版基金らの明確な方針決定,機関レベルでの請求・収集モデルの確立,著者に対するアプローチ,パイロットプログラムの立ち上げなどが今後の展開として提言されている。
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・Knowledge Exchangeウェブページ「Report on Submission fees」
http://www.knowledge-exchange.info/Default.aspxID=413, (accessed 2010-12-28).
・JISCレポート「Economic implications of alternative scholarly publishing models: Exploring the costs and benefits」
http://ie-repository.jisc.ac.uk/278/3/EI-ASPM_Report.pdf, (accessed 2010-12-28).
・BioMed Centrals article-processing charges
http://www.biomedcentral.com/info/authors/apcfaq, (accessed 2010-12-28).
・PLoS Journals Publication Fees
http://www.plos.org/journals/pubfees.php, (accessed 2010-12-28).