抄訳
長期宇宙飛行から地球に帰還した宇宙飛行士では、ふらつきや歩行障害などの前庭機能低下がみられますが、そのメカニズムは十分に解明されていません。本研究では、国際宇宙ステーション(ISS)で35日間飼育したマウスの内耳から、重力を感知する球形嚢と卵形嚢を個別に採取し、遺伝子発現を網羅的に解析しました。その結果、球形嚢では神経伝達やシナプス機能に関連する多数の遺伝子が変化した一方、卵形嚢では大きな変化を認めませんでした。さらに、157~328日間ISSに滞在した宇宙飛行士を調べたところ、地球帰還直後には球形嚢機能が選択的に低下し、姿勢のふらつきも増加していました。また、微弱な前庭電気刺激により帰還後の姿勢バランスが改善しました。これらの結果は、球形嚢が重力環境の変化に応じて分子・機能の両面で適応する可能性を示しており、将来の長期宇宙飛行における重力再適応や前庭リハビリテーションへの応用が期待されます。