抄訳
全球の気候を調節する重要な役割を担う大西洋子午面循環(AMOC:Atlantic Meridional Overturning Circulation)は、将来的な弱化が懸念されているものの、遠隔地への影響には不明点が多く残されている。最終氷期に繰り返し発生したAMOCの弱化は、その影響が北大西洋から遠く離れた地域へどのように波及するかを理解する手がかりとなる。本研究では、南東太平洋チリ沖で得られた海底堆積物記録と気候モデル実験を組み合わせ、当時のAMOC弱化が南半球中・高緯度域に及ぼした影響を調査した。その結果、AMOCの弱化に応答して、パタゴニア氷床からの堆積物や融解水の流出が繰り返し増加したことを示す証拠を得た。数値シミュレーションからは、AMOC弱化に伴う南太平洋の海水温上昇と南半球偏西風帯の強化が、パタゴニアを含む南半球中・高緯度域の降水量の増加や氷床縁辺部での融解を促進した可能性が示された。本研究は、両半球間の熱の再分配(thermal bipolar seesaw)を介した大気・海洋循環の変化を通じて、AMOCの弱化が南半球中・高緯度域にまで広範な気候変動を引き起こし得ることを示している。