抄訳
一つのヒト細胞は数百から数千コピーのミトコンドリアDNAを有しますが、その一部のみが細胞周期に関係なく複製します。リーディング鎖とラギング鎖の非同期複製がミトコンドリアDNAの主な複製機構とされていますが、これまでは、細胞内で刻々と変化するDNA複製動態を観察することが難しかったために、その制御機構の解明は困難でした。本論文は、各鎖の複製開始部位と時間を鑑別するミトコンドリアDNA1分子解析法を用いることにより、細胞の休止期から増殖期への移行過程では、ミトコンドリアDNAの鎖特異的な複製頻度が動的に解離し、複製・転写に必要な分子の要求度が変化することを示しました。すなわち、この過程では、ミトコンドリアRNAポリメラーゼの複製開始における要求度が高まるとともに、DNA障害部位でDNA再プライミングを行うプライマーゼ-ポリメラーゼの要求度が低下します。このように、単鎖レベルで正確にミトコンドリアDNA複製頻度を定量化することで、休止期から増殖期への移行過程におけるミトコンドリアDNA複製機構の動的な性状が明らかになりました。