抄訳
真核生物の生育に必須な膜脂質である複合スフィンゴ脂質は、複雑な構造バリエーションを持ち、この構造多様性は複合スフィンゴ脂質が多彩な生理機能を発揮するための重要な分子基盤であると考えられている。しかしながら、その全体像は殆ど不明である。我々は、出芽酵母を用いて様々な複合スフィンゴ脂質サブタイプが抜け落ちた複合スフィンゴ脂質構造多様性破綻ライブラリーを構築し、複合スフィンゴ脂質の構造多様性が限定されればされるほど、多面的な環境ストレス耐性能が低下することを見出した。また、複合スフィンゴ脂質が一種類のみとなった変異株では、Slt2 MAP kinaseや転写因子Msn2/4が、細胞壁および形質膜のインテグリティーの補填をすることで、複合スフィンゴ脂質多様性破綻によって引き起こされるストレス耐性能低下を抑制していることがわかった。これらの結果より、複合スフィンゴ脂質の多様性の限定は、細胞壁、形質膜といった細胞表面環境の異常を介して多面的ストレス高感受性をもたらすことが考えられた。