抄訳
グルコースは自然界に最も多く存在する単糖であり、生物にとって重要なエネルギー源である。グルコースは主にオリゴマーやポリマーとして存在し、生物はそれを分解して摂取する。澱粉は植物由来のα-グルカンであり、これを分解する酵素はよく研究されている。一方で細菌や真菌の中には、澱粉とは異なるグルコシド結合を持つα-グルカンを生成するものがあり、その構造は非常に複雑で、十分に解明されていない。また、澱粉を分解する酵素に比べて、これらの微生物のα-グルカンを分解する酵素の生化学的および構造生物学的研究は限定的である。本総説では、α-(1→6)、α-(1→3)、α-(1→2)結合をもつ微生物α-グルカンに作用する糖質加水分解酵素に焦点を当てる。近年、微生物ゲノムの情報が蓄積され、これらの結合に特異的に作用するα-グルカン加水分解酵素が発見されるようになった。これは、微生物が外部からエネルギーを得るための戦略を明らかにすることに繋がるだけでなく、α-グルカン分解酵素の構造解析により、その基質認識機構が明らかになり、複雑なα-グルカンの構造を理解するためのツールとしての可能性が広がっている。本総説では、微生物のα-グルカン分解酵素の先行研究に触れながら、最近の構造生物学的研究の進展をまとめている。