抄訳
エストロゲン受容体α遺伝子ESR1のイントロン6に存在する2,244 bp微細欠失(∆ESR1)が停留精巣 (CO) や尿道下裂 (HS) の遺伝的感受性因子であることを明らかとした。これは、(1) 日本人とイタリア人のハプロタイプ解析により、同一の34 kb以上の連鎖不平衡 (LD)ブロックと4つのハプロタイプ、AGATCハプロタイプとCO・HSの強固な相関が見出されたこと、(2) 全ゲノム解析により、日本人とイタリア人のAGATCハプロタイプから、マイクロホモロジーに介在される同一の∆ESR1が同定されたこと、(3) ∆ESR1が停留精巣・尿道下裂と強い連鎖を示したこと、(4) ∆ESR1あるいはこの領域上の唯一の機能因子であるCTCF-BSをホモで欠失させた乳がん由来細胞が野生型乳がん由来細胞よりESR1を多く発現し、エストロゲン様物質添加後のdown-regulationをほとんど示さなかったことに基づく。以上の成績は、∆ESR1がESR1発現量増加を招くことでCO・HSの感受性因子として作用することを示すものである。また、∆ESR1がAGATCハプロタイプと絶対連鎖不平衡を示したことから、∆ESR1は、進化の初期には極めて稀であったマイナーアレルの組み合わせから成るAGATCハプロタイプを持つ創始者に形成され、ESR1発現量増加に伴う適応度向上を介して世界中に広がってきたきたと推測される。