抄訳
同じ遺伝情報をもつクローン細胞を同じ環境に置いたとしても、個々の細胞のさまざまな性質(表現型)には、しばしば大きなばらつきが観察されます。このような「表現型ゆらぎ」は遺伝情報と異なり子孫細胞に安定に継承されないため、これまでその進化的意義については十分に理解されてきませんでした。今回のこの論文では、大腸菌のクローン細胞集団を1細胞レベルの精度で100世代以上の長期にわたって連続観察可能な計測システムを開発し、これを用いることで、細胞レベルの成長ゆらぎが大きいほど、それら細胞によって構成される細胞集団がより速く成長できることを定量的に明らかにしました。この結果は、表現型ゆらぎの明確な進化的意義を示すとともに、細胞集団の成長能が細胞の平均的な成長能と定量的には必ずしも一致しないという興味深い事実を実験的に確認するものです。さらにこの論文では、異なる環境条件下での成長ゆらぎの間に成立する新たな定量的法則も発見し、この法則に基づいて、成長ゆらぎの情報から各生物種の成長率の原理的上限を知ることができる可能性も示唆しています。