抄訳
Krppel homolog 1(kr-h1)は昆虫変態抑制の鍵となる役割を果たしている。Kr-h1は、幼若ホルモン(JH)により、JH受容体methoprene tolerant(Met)を介して誘導されると推定されているが、その機構は不明である。JHによるKr-h1の誘導機構を解明するために、カイコからKr-h1(BmKr-h1)と2種類のMet(BmMet1, BmMet2)をクローニングした。カイコ培養細胞において、BmKr-h1はナノモル以下の濃度の天然JHによって速やかに誘導された。レポーターアッセイによって、BmKr-h1転写開始点の約2キロ上流に141塩基からなるJH応等配列(kJHRE)を特定した。kJHREのコア配列(GGCCTCCACGTG)には、bHLH-PAS転写因子が結合する可能性がある標準的なE-box配列が含まれていた。内在性のJH受容体を欠く哺乳類培養細胞HEK293において、GAL4のDNA結合ドメインとBmMet2の融合タンパク質を発現すると、JH依存的にUASレポーターが誘導された。一方、kJHREレポーターは、HEK293細胞において、BmMet2とbHLH-PASファミリーの一因であるBmSRCを共発現させた時のみ、JH依存的に誘導された。また、BmMet2とBmSRCはJH依存的に相互作用することがわかった。以上のことから、JHによるBmKr-h1の誘導機構仮説を提唱した。すなわち、BmMet2がJHを受容すると、BmMet2はBmSRCと相互作用し、JH/BmMet2/BmSRCの複合体がkJHREと相互作用することで、BmKr-h1を活性化する。